タイの調味料「ナンプラー」とは?醤油との違いや代用品、人気レシピを紹介します
タイ料理に欠かせない調味料「ナンプラー」は、独特の香りと深い旨味が特徴的な魚醤(ぎょしょう)です。
トムヤムクンやガパオライスなど、本場のタイ料理を作るには欠かせない存在で、最近では日本のスーパーでも手軽に購入できるようになりました。しかし、その強烈な香りから「使い方がわからない」「どんな料理に合うの?」と悩む方もいるのではないでしょうか。
この記事では、ナンプラーの特徴から醤油との違い、上手な使い方、さらには代用方法まで、ナンプラーの魅力と活用法を余すことなくご紹介します。
ナンプラーとは?原料・製法と他の魚醤との違い

ナンプラーは独特の香りと深い旨味が特徴で、東南アジアの食文化を代表する魚醤(ぎょしょう)のひとつとして世界中で愛されています。
ここでは、ナンプラーの基本的な特徴から製造方法、そして他の魚醤との違いまで詳しく解説します。
タイの万能調味料「ナンプラー」とは
ナンプラーは、タイの伝統的な調味料の一種です。生の魚を塩漬けにして発酵させて作る液体調味料で、日本でいう「魚醤」にあたります。
タイ語で「ナム」は「液体」、「プラー」は「魚」を意味し、その名の通り魚から作られた調味料です。東南アジアの料理には欠かせない調味料で、タイでは屋台から高級レストランまであらゆる場所で使われています。
魚を発酵させて作るため旨味成分が凝縮されており、料理に塩味と深いコクを与えてくれます。独特の強い香りがありますが、他の調味料では得られない旨味があり、一度味わうとクセになるでしょう。
タイの食卓では、日本の醤油のような存在として親しまれています。炒め物やスープ、サラダのドレッシングなど、幅広い料理に使われる万能調味料です。
ナンプラーの原料と製法
ナンプラーの主な原料は、小魚(特にカタクチイワシなどのイワシ類)と塩、水です。小魚を内臓ごと大量の塩に漬け込み、数ヶ月から数年かけて発酵させます。
魚の下処理をせず丸ごと漬け込むため、内臓の酵素が魚の身を分解し、旨味成分であるアミノ酸を生成します。発酵・熟成は製法やメーカーにもよりますが半年から1年以上、長いものでは2年近く費やされます。
十分に発酵が進むと、透明な褐色の液体が染み出してきます。これを濾して取り出したものがナンプラーで、上質なものでは上澄みの濁りのない一番搾りだけが瓶詰めされることもあります。
他の魚醤との違い
ナンプラーのような魚醤はタイだけでなく世界各地に存在し、地域ごとに名称や風味が異なります。ベトナムの「ヌクマム(ニョクマム)」も代表的な魚醤のひとつです。
作り方はナンプラーと似ており、カタクチイワシなど小魚を塩漬け発酵させて作る点は共通しています。違いとしては、発酵度合いがやや低めであるためナンプラーより独特な香りが強く、塩気がまろやかとも言われます。
日本にも古くから魚醤文化があり、秋田県の「しょっつる」が知られています。しょっつるはハタハタを原料に同じ製法で作られ、クセの少ない風味が特徴です。
それぞれ原料の魚種や発酵期間の違いによって風味に個性がありつつも、魚を発酵させて旨味を引き出す調味料である点ではナンプラーと共通しています。
ナンプラーの特徴と使い方
ナンプラーは独特な風味を持つ調味料ですが、使い方次第で様々な料理に活用できます。その特徴的な味と香りを使いこなすことで、いつもの料理に新たな深みを加えることができるでしょう。
ここでは、ナンプラーの味と香りの特徴から、本場タイでの使われ方、そして日本の家庭料理への取り入れ方まで解説します。
ナンプラーの味と香り
ナンプラーの味を一言で説明するのは難しいですが、「醤油に発酵した魚の旨味を足したような風味」と表現できます。塩気の利いた醤油のベースに、アンチョビや塩辛のような発酵魚介の旨味がプラスされたイメージです。
旨味成分が凝縮されているため、ごく少量でも料理に深みを与えてくれるのが特徴です。
一方で、香りは非常に個性的で強烈です。発酵食品特有のツンとくる香りが強く、初めて嗅ぐと抵抗を感じる方もいるかもしれません。
しかし、加熱するとこの香りは驚くほど和らぎます。加熱後は穏やかな香りに落ち着き、旨味が料理に残ります。
タイ料理での使われ方

タイにおいてナンプラーは、塩や醤油のように日常的に使われる調味料です。タイの食堂では、唐辛子や酢、砂糖などと並んでナンプラーが調味料セットとして備え付けられています。
料理の味付けにも広く使われており、トムヤムクンやパッタイ、ガパオライスなどの代表的なタイ料理は、ナンプラー無しでは本場の味になりません。青パパイヤのサラダであるソムタムにも欠かせない調味料です。
このようにナンプラーはタイ料理文化において欠かせない万能調味料で、あらゆる場面で活用されています。
プリックナンプラーとは?
タイ料理店の卓上に置かれる調味料セットには「プリックナンプラー」というナンプラーに似たものもあります。これは刻んだ唐辛子(プリック)をナンプラーに漬け込んだもので、好みでライム果汁や刻みにんにくを加える場合もあります。
汁麺や炒め物、炒飯などに数滴垂らせば、ピリっとした辛味とナンプラーの旨みや塩気が加わり、料理の味が一段と引き立ちます。
初めて使う際は少々強烈に感じるかもしれませんが、一度ハマるとやみつきになるタイならではの風味を持つ調味料です。
日本人向け!ナンプラーの上手な活用方法
ナンプラーは使い方次第で和食や他の料理にも活用できます。基本的には醤油と同じ感覚で、「かける・漬ける・炒める」など様々な用途に使える調味料です。
例えば、料理の仕上げにひと垂らしして風味付けをしたり、タレやマリネ液に少量混ぜたりできます。スープに数滴入れてコクを出すような使い方もおすすめです。
いつもの和食に醤油代わりにほんのひと匙のナンプラーを加えてみると、普段とは一味違う旨味が感じられるようになります。唐揚げの下味に醤油と半々で使ったり、焼き魚の仕上げに刷毛で塗ったりすると旨味がぐっとアップします。
ただし、香りが強いので、生のまま醤油のように大量にかけるのは不向きです。加熱調理で香りを和らげるか、香味野菜と合わせて使うと良いでしょう。
このように工夫すれば、タイ料理に限らず普段の料理でも隠し味として活躍します。
ナンプラーと醤油の主な違い
ナンプラーと醤油は見た目は似ているものの、実は全く異なる調味料です。原料から製造方法、味わいまで、それぞれに特徴があります。
ここでは、ナンプラーと醤油の違いをさまざまな視点から紹介します。
原料・製造の違い
ナンプラーと醤油は似た色合いの液体調味料ですが、原料から全く異なるものです。
ナンプラーは魚と塩を発酵させて作る「動物性調味料」なのに対し、醤油は大豆と小麦に麹菌を加えて発酵させて作る「植物性調味料」です。
製造工程にも違いがあり、ナンプラーは魚自体に含まれる酵素と塩の力でタンパク質を分解させます。一方、醤油は麹菌によって大豆のタンパク質を分解し、さらに発酵・熟成させる工程を経て作られます。
このような原料と製法の違いから、両者は風味や成分も大きく異なる調味料となっているのです。
色・風味の違い
ナンプラーは醤油よりも色が薄い茶色をしています。琥珀色から淡い褐色の透明な液体で、同じ量を皿に垂らしてみると醤油(濃口醤油)の方が黒っぽく濃い色です。
風味についてもはっきり違いがあります。ナンプラーは発酵した魚由来の、鼻をつくような独特の香りと強い塩味が特徴です。味わいも塩辛さが前面に出ており、後から魚の発酵したコクが追いかけてくるようなイメージです。
一方、醤油は香ばしい穀物由来の風味と豊かな旨味があり、塩味はあるもののナンプラーほど尖った塩辛さではありません。醤油の香りには大豆を発酵させた際のまろやかで甘みを帯びた香ばしさがあります。
塩分濃度の違い
ナンプラーと醤油でもう一つ大きく異なるのが塩分濃度です。日本の濃口醤油は14.5%、薄口醤油は16.0%であるのに対し、ナンプラーは22.9%と高めです。
そのため、同じ量を使うとナンプラーの方が塩辛くなります。料理に使う際は塩分過多にならないよう注意しましょう。
醤油の代わりにナンプラーを使う場合は、醤油より控えめの量にとどめ、味を見ながら少しずつ足したり、少量を香り付けや隠し味程度に活用したりするのがおすすめです。
ナンプラーがないときの代用方法
タイ料理を作りたいけれどナンプラーが手元にない、そんな時には身近な調味料を組み合わせることで、ナンプラー風の調味料を簡単に作れます。
ここでは、家庭にある調味料を使った代用方法を紹介します。
鶏がらスープの素+醤油で代用
自宅にあるもので代用したい場合に役立つのが、鶏がらスープの素と醤油を使った代用方法です。市販の顆粒状の鶏がらスープの素と薄口醤油、そして少量のレモン汁を混ぜることで、簡易的にナンプラー風の調味料が作れます。
作り方は簡単で、以下の材料を混ぜ合わせるだけです。
・薄口醤油:大さじ1
・顆粒の鶏がらスープの素:小さじ1
・レモン汁:小さじ1
薄口醤油は濃口より塩分が強く色も淡いので、ナンプラーの色味・塩味に近づけるのに適しています。鶏がらスープの素は魚由来ではありませんが、動物性の旨味が加わることでナンプラー特有のコクに近い風味が再現できるのです。
レモン汁を少量加えることで、その酸味がナンプラーの持つ発酵由来の風味に近づきます。
アンチョビ+醤油で代用
もう一つおすすめの代用法は、アンチョビと醤油を組み合わせる方法です。アンチョビには魚を発酵・熟成させた強い旨味があるため、醤油に足すことで魚醤に近い風味になります。
以下の材料を混ぜ合わせるだけで簡単に作れます。
・薄口醤油:大さじ1
・アンチョビ:5g程度
・レモン汁:小さじ1
アンチョビはペースト状になるまで包丁で細かく叩くか、アンチョビペーストを使うと良いでしょう。こうしてできた「アンチョビ醤油」は、醤油だけでは出せない魚介の発酵した旨味を持った調味料として使えます。
隠し味に数滴加えればナンプラー無しでも近いコクを出すことができるほか、分量を調節してドレッシングやタレに混ぜるのもおすすめです。
前述のとおり、薄口醤油を使うとよりナンプラーの色味・塩味に近づけられます。
ナンプラーを使ったおすすめタイ料理
ナンプラーはタイ料理に欠かせない調味料として、様々な料理に深い旨味とコクを与えます。酸味と辛味が特徴的なスープから、香り高い炒め物、爽やかなサラダまで、ナンプラーの魅力を存分に楽しめる料理はさまざまです。
ここでは、ナンプラーが味の決め手となる代表的なタイ料理を6品ご紹介します。
1. トムヤムクン(タイの海老スープ)

トムヤムクンは、レモングラスやコブミカンの葉など香り高いハーブとエビを使った、タイを代表するスープです。一度食べれば忘れられない独特の美味しさで、「世界三大スープ」の一つとされています。
名前の由来はタイ語で「トム(煮る)」「ヤム(混ぜる)」「クン(エビ)」を意味し、その名の通りプリプリのエビが主役です。刺激的な辛さと爽やかな酸味、そしてナンプラーの塩味とコクがクセになるでしょう。
2. ガパオ・ガイ(鶏肉のバジル炒め)

ガパオ・ガイは、鶏肉をホーリーバジル(ガパオ)というタイのバジルと一緒に炒めた料理で、タイの国民食とも言える人気メニューです。
鶏肉の旨味にバジルの爽やかな香りと唐辛子のピリッとした辛みが加わった、食欲をそそるスパイシーな味わいが特徴です。ナンプラーと砂糖で仕上げるため、塩気とコク、そして深い旨味が感じられます。
ガパオ・ガイはアツアツのご飯にたっぷりとかけ、半熟の目玉焼きを崩しながら食べるのが定番です。黄身のまろやかさが加わることで辛みがマイルドになります。
3. ヤム・ルアムミット(シーフードのスパイシーサラダ)

ヤム・ルアムミットは、エビ・イカ・貝類など様々なシーフードと野菜をたっぷり使ったタイ風スパイシーサラダです。名前の「ルアムミット」はタイ語で「寄せ集め」を意味し、いろいろな素材を使った贅沢な一品です。
ナンプラー、ライム果汁、砂糖、刻んだ唐辛子やにんにくを混ぜ合わせて作るドレッシングで和えるため、辛味・酸味・甘味・塩味が調和した刺激的な味わいです。
ピリッとした辛さと酸味で暑い時期でもサッパリ食べられるほか、お酒のおつまみにもぴったりです。
\ヤム・ルアムミット(シーフードのスパイシーサラダ)のレシピを見る/
4. パッタイ(タイ風焼きそば)

パッタイはタイの代表的な麺料理で、平たい米麺を使ったタイ風焼きそばです。エビ、干しエビ、厚揚げ、卵、もやし、ニラなど具だくさんの材料を鍋で炒め、特製の甘酸っぱいタレで味付けして仕上げます。
パッタイの味付けは甘味・酸味・塩味・辛味のバランスが取れたクセになる味わいです。タマリンドペーストのほのかな酸味と砂糖の甘みがベースとなり、ナンプラーで塩気と旨味を加えます。
出来立てアツアツのパッタイに、ライムを絞って風味を足すのが本場のスタイルです。
5. ガイ・パット・メットマムアン(鶏肉とカシューナッツ炒め)

ガイ・パット・メットマムアンは、香ばしく揚げた鶏肉・カシューナッツ・唐辛子を、玉ねぎなどの野菜と炒め、甘辛いタレで絡めた料理です。
ケチャップと砂糖で甘さを、ナンプラーで塩味と旨味を、チリソースで辛みとコクを加えます。
鶏肉のジューシーさとカシューナッツの香ばしさが引き立つ甘辛い味がクセになる一品で、ご飯とも相性抜群です。
\ガイ・パット・メットマムアン(鶏肉とカシューナッツ炒め)のレシピを見る/
6. ゲーンキアオワーン・ヌア(牛肉のグリーンカレー)

ゲーンキアオワーン・ヌアは、ココナッツミルクやグリーンカレーペーストを煮込んだカレーに、牛肉を加えた一品です。鮮やかな緑色は、青唐辛子やハーブをすり潰して作るグリーンカレーペーストによるものです。
グリーンカレーは、ココナッツミルクのまろやかな甘みと青唐辛子の鋭い辛みが絶妙に調和した味わいで、タイ米などご飯にかけて食べるのがおすすめです。
ナンプラーを加えることで旨味や塩味が増し、味がまとまります。
\ゲーンキアオワーン・ヌア(牛肉のグリーンカレー)のレシピを見る/
まとめ
ナンプラーは、魚を塩漬け発酵させて作るタイの伝統的な調味料です。独特の香りはありますが、加熱すると和らぎ、料理に深い旨味とコクを与えてくれます。
醤油より塩分濃度が高いため使用量に注意が必要ですが、タイ料理だけでなく、和食の隠し味としても活用できる万能調味料です。手元にない場合は、家庭にあるもので代用も可能です。
日本でも入手しやすくなったナンプラーを使って、本格的なタイ料理や、いつもとは一味違う料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。